バグダッドの青い空
村田信一 講談社
☆☆☆☆
DAYS JAPANという雑誌が創刊された。「世界を視る、権力を監視する
写真中心の月刊誌」らしい。
本屋で見かけて手にとってみたが、昔馴染みの常連だけを相手にした、
やたら入りにくい飲み屋のようで、とても買う気にはならなかった。
表紙が典型だが、「フォトジャーナリズムたるものこうあらねば!」といった、
型にはめ込んだ写真ばかりのように見えたのだ。
ベトナム戦争あたりから形成された「悲惨な戦争被害者」というイメージを
再現しているだけなんじゃないか、と。
「バグダッドブルー」はそうした写真のありようとは一線を画す。
たとえば「ホスピタリティー」と題した一枚は、爆発物の被害にあった家を
撮影する著者のために、わざわざ飲み物を用意してきてくれた被害者を
写し出している。本書では被害跡より、そちらの方が優先順位が高いのだ。
もちろん、戦争写真ではお決まりの兵士や爆撃、死体なんかも出てくるのだが、
ひなびた床屋やプールで泳ぐ人、カフェの光景等々、本書ではイラクに住む
人たちの生活ぶりに多くの枚数が割かれている。
つまり、戦争“も”含めた現在のイラクの日常を、著者はフィルムに写そうと
しているのだ、と思う。写真自体も美しく、報道写真のイメージとは異なる。
それらの写真は、私たちがあまり知らないイラクの生活を身近に引き寄せ、
同時にその平穏な生活が突然の爆撃で破壊される理不尽さを伝えている。
イラク戦争で、米国にとって都合よくコントロールされた情報が多く
流通したことは、今さら説明するまでもない。
その一方で、そうではない立場から情報を送り出そうとする人たちがいた
ことも確かなのだが、「悲惨な被害者」ばかりに目がいってしまい、
かえって説得力をなくしてしまったように感じる。
それは伝える人が従来の型にとらわれて、何をどのように伝えるかに
ついて、思考停止に陥った結果なのだろう。
自分の脳内イメージを、わざわざ写真で再現してどうする。
本書にはそんな呪縛から抜け出して、著者が現地を丹念に歩きながら
自分の頭で考え、撮影したイラクの現在が収められている。
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