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2004.04.11

「国民全員が社長」なわけあるか!

久しぶりに書評です。

イタリア人の働き方 国民全員が社長の国
内田洋子 シルヴィオ・ピエールサンティ 光文社新書
☆☆

怠け者で女ったらしで酒飲んで遊んでばかりで、というイメージがある
イタリア人だが、実は自分にとっての人生の意味を心得ているだけで、
彼ら彼女らは人生を楽しむお金を得るために懸命に働く、という。
本書はそんなイタリア人の中で、「一人で仕事を始め、会社を興し、
実績を作り、名前が知られるようになった」人たちを紹介している。

紹介されるのは「VIPが我先に訪れるイタリア一の靴磨き」や「ヴェネツィア
一の水上タクシー運転手」、「本人の代わりにすべてを決めてくれる
パーソナル・ショッパー」といった個人事業的な仕事から、「世界最高の
ラガー・ビールを造るメーカー」などの零細企業経営者、年商1億ユーロ
(130億円)の「板金プレス業界のリーダー」である81歳の女性経営者等々。

取り上げられる人物はそれぞれユニークで、ビジネスの内容も面白い。
ただ、個人事業から中堅企業経営者、大企業の勤め人まで取り上げている
ため、よく言えばバラエティに富んでいるが、「イタリア人」以外の統一した
切り口がよく見えない。面白ければそれでも構わん、という考え方もアリだろう。
しかし、読後の胸クソ悪さは致命的だ。
たとえば、パーソナル・ショッパーの記事中にこんな記述がある。
「今日、何事もまずは外見ありき。他人は、その人の外見で中身を判断する
ものである。世の中に知られることなく、マスコミに取り上げられる
こともなくひっそりと暮らすのは価値のない人生、と思う人が大半である」
おいおい、正気か…。

登場する人物や仕事を紹介するにも、やれVIP御用達とかVIPでも
なかなか手に入らないとか、そんな表現の仕方がやたらと目に付く。
要するに、書き手のしょーもない価値観がそこに現れているわけだ。
で、肝心のイタリア人ならではの「働き方」の面白さや興味深さは、
あまり伝わってこないし、社会的背景まで知ることなど望むべくもない。
「人口5700万人の国で法人登録が2000万社。国民全員が社長の国・
イタリアの底力」という煽り文句はまあいいんだけど、普通に考えれば
中小零細企業が多くても、経営者より労働者の方が多いはずなわけで、
この数字の裏側には何かあると思うんだが、その点の記述は一切なし。
全員が社長だったら誰を雇うんだ。頼むから、少しは頭を使ってくれ。
安っぽい価値観で、興味深い事実の上っ面を撫で回して台無しにした一冊。

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