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2004.06.16

サダムの時代

先週、知人のフォトジャーナリストがイラクへと旅立った。
十分な経験と実績を持っている人物ではあるが、日本人であることが
標的にされる理由となる現在、心から無事を願わずにはいられない。

先日の橋田信介氏の事件の際、小泉首相はだから危ない所に行くなと言ったのに、
という趣旨の発言をした。そこには、あんなところに行く奴は国家の迷惑だ、
自業自得の間抜けだみたいな印象を与え、世論を操作する意図が透けて見える。
彼らにとっての不都合な情報はできるだけ抑えたいだろうから、統制のきかない
フリーのジャーナリストなんぞにウロウロして欲しくないのだろう。
実際、サマワで露骨な情報統制が行われていることは、月刊現代7月号で
小野一光氏がレポートしている。

しかし情報統制の行き渡った社会がいかに唾棄すべき、ろくでもないものになるか。
皮肉なことに、それはフセイン政権下のイラクの不毛さが如実に表している。
サダムの時代(中央公論新社 相原清+久保健一+柳沢亨之)は、そんな
フセインの支配体制を、同時代を生きた3人の個人史から検証した一冊である。

焦点を当てられたのはフセインを支えたバース党の中級幹部と反体制作家、そして
クルド人の女性兵士という、壮絶な人生を歩いてきた人物たち。
フセインが国家権力を手中に収める過程の中で、それぞれがどのような思いで
権力に組み込まれ、あるいは戦い、ときに迎合してきたか。一筋縄では
いかない人生が、イラクの政治史とともに描写されている。

フセイン体制が崩壊した後もイラク情勢は混迷を深める一方のため、報道の
内容が現状のフォローばかりになりがちなのは仕方のない面もある。だが、
フセイン政権というかなりいびつな国家体制がなぜ成立し、そこで何が行われて
いたかを知ることは、日本がイラク問題にどう関わっていくかを考える上でも
欠かせない行為である。ブッシュのご機嫌だけ取ればいいというものではない。
本書はその参考になるのはもちろん、かなり徹底した取材がなされた成果として、
読み物としても優れた出来になっている。

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