« 光文社ペーパーバックス「日本語」の崩壊 | トップページ | 「内側」≠「当事者」 »

2004.07.31

オレ竜コーチング

今年、中日ドラゴンズの試合を見る楽しみは選手の成長・進化ぶりにある。
といっても以前のことはよく知らないのだが、シーズン当初は打撃が
ダメダメだった荒木が守備の自信を手がかりに飛躍したり、やはり守備固めで
神業を連発した英智がチャンスをつかんでレギュラーを奪取したり。
これは若い選手に限った傾向ではなく、立浪は野球人生最高の結果を残しそうだし、
ずっと日陰にいた柳沢が輝く姿は涙なしに語れない。
もちろん中にはパッとしない選手もいるが、総体的に見ると今年飛躍したといえる
選手が多いのではないか。

そんなわけで、昔読んだ落合博満著「コーチング―言葉と信念の魔術」を改めて
手にとってみた。
現在のドラゴンズの戦いぶりと照らし合わせると、実に興味深い一冊である。

100人の若い社員を預かったなら、その100人すべてに、何とか目鼻をつけさせたい。
そのためにはどうするか。若い人たちの最大なる長所と、欠点は何かを見る目を
つけさせることだ。(中略)目立つ長所があり、欠点がさほど仕事や人間関係に
影響しないものであれば、その長所をどんどん伸ばしてやればいい。それが自分の
長所であるという自覚を持てば持つほど、仕事や身のこなしにも自信があふれて
くる。そして、そんな人の欠点は、いつしか長所の陰に隠れてしまうことが多い。

こんな記述からは、守備という長所を活かして飛躍した荒木や英智の姿が思い浮かぶ。
他の球団だったら、二人は地味な守備要因で終わっていた可能性が高いと思う。
渡辺も頑張れよ! また、こんな自己分析も興味を引かれる。

プロ野球界の指導者には、3つのタイプがある。それは、その指導者がどの方向を
向いて話をしているかで決まる。選手のほうを向いて話をするのか、会社(チーム)に
向かって話をするのか、一般大衆(メディア)に向かって話をするのか。(中略)
私の評判が良くないのは、あまり会社や大衆に向かって話をしないからだ。私は、
少数の人間からは支持されても、会社の経営者や一般大衆からは支持される
タイプではない。

自分がマスコミに叩かれることなど、あらかじめお見通しだったようである。
ついでに関西で偉くなった人を揶揄しているように見えるのは気のせいか。
というように本書は色々な読み所があるのだが、何より素晴らしいのは
選手を一個の人間として尊重し、実際にグラウンドでプレーする彼らを
主体としてすべてを発想している点にある。指導者論として秀逸なのだ。

本書が発売されたのは2001年8月。当時、落合はキャンプ中の臨時コーチを除き
指導者経験がなかった。それにも関わらずこれほど実践的なコーチング論を記す
ことができたのは、きっとこの人は当てもないのに指導者になったときのことを
想定し、組織運営や選手指導の方法、リーダーシップの発揮などについて、
考えて考えて考え抜いてきたからだと思う。監督に就任したとき、指導者経験の
無さを指摘する向きもあったが、浪人時代も落合の心はグラウンドにあったのだ。
正真正銘の愛すべき野球バカであり、その思考の結実を見てハァハァしている
ファンの方にはぜひ一読をおすすめしたい。

|

« 光文社ペーパーバックス「日本語」の崩壊 | トップページ | 「内側」≠「当事者」 »

コメント

「労働外論」さん効果でしょうか?
経営者でも上司でもないですが、今更ながら購入したくなります。
http://www.chunichi.co.jp/00/sya/20041021/eve_____sya_____010.shtml

投稿: | 2004.10.22 07:13

今、チェックしてみたら当サイトからの「コーチング」売上は12冊。クリック数は574.
効果なんてとてもとても。
ちなみに「勝てる監督、負けるボス」は売上ゼロのクリック数543でした。

投稿: kenzow | 2004.10.22 10:43

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: オレ竜コーチング:

« 光文社ペーパーバックス「日本語」の崩壊 | トップページ | 「内側」≠「当事者」 »