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2005.11.13

「誇大」理論と「地に根ざした」理論

某所の課題図書として読んだ『データ対話型理論の発見』(B.G.グレイザー A.L.ストラウス 新曜社)は、理論の創出を奨励した社会学の古典的名著、だそうです。社会学研究と縁遠い人間には記述がかなり難解かつ、原著が出版された時代の状況がよくわからないため、正直、どこまで理解できていのか心許ないのですが、とりあえず以下に内容をまとめてみますた。


社会学研究においては、偉大な先人たちがつくった理論の検証に重点が置かれ、新しい理論の創出がないがしろにされている…。本書はそんな状況を批判し、あらかじめ設計された統計的調査だけではなく、インタビューやテーマに関連する小説、手紙などさまざまなデータを獲得し、それらを比較、対話することによって、新たな理論を発見することの重要性を主張する。原著のタイトルが”The Discovery of Grounded Theory”、すなわち「データに根ざした理論の発見」であることを見れば、思弁だけで物事を認識し構築された、現実には適合しない”Grand Theory”(誇大理論)に対し、強く異を唱えていることがうかがえよう。

では、「データに根ざした理論の発見」をどうやって行なうのか。そのポイントになる主要なアイデアが「理論的サンプリング」、「絶えざる比較法」、「理論的飽和」である。理論的サンプリングとは「理論を産出するために行なうデータ収集のプロセス」のこと。このプロセスを通じ、分析者はデータ収集とコード化と分析を同時に行なう「絶えざる比較法」を実践し、あるカテゴリーの特性をそれ以上発展させられるようなデータがもう見つからない「理論的飽和」が起きるまで継続する。

これを超訳すると、関連のある情報ならば積極的にデータとして採用し、それらをさまざまな角度から突き合わせ、新たなアイデアの産出が尽きるまであれこれ考えていく、ということになるだろうか。前述したように、本書はろくにデータとの対話を行なわず理論検証に偏った社会学のあり方に対するアンチテーゼとして記されたが、集めた情報を読みやすく並べるだけに終始しがちなライターという仕事にとっても、現実に適合した深い分析と理論の創出を可能にする有用な道具となるかもしれない。

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コメント

アンチ・グランド理論をここまで明確に体系だててみせたものははじめての本だと聞いています。個人的にも良い本だと思いますが、「コード化」でつまずいている人をよく見ます。要はデータからロジックツリーがつくれなかったり、ポイントが絞り込めなかったり、適切な言葉でくくれなかったり、抜けやモレがあったり‥。料理法がわからないと結構やっかいなところに入り込むようです。

投稿: ヨシザワ | 2005.11.14 04:16

既読でしたか、さすが。
確かに、具体的にどうやるという部分がなかなか見えない…。

投稿: kenzow | 2005.11.14 09:31

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