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2006.02.10

バルトで生扉を開けたら朝日が沈んでいた その1

某大学院に通い始めて良かったことといえば、今までなら絶対に手を出さなかった書籍を手に取るようになったことだな。たとえば、こんなのね
こいつは古くて小難しい本だけど、そこに書かれている概念を援用するといろいろ遊べます。ま、ちょいとやってみませう。

本書は1967年に文芸批評家であり記号論者であるロラン・バルトが発表した、仏モード誌に掲載された「書かれた衣服」の意味作用の構造を、記号学の理論を駆使して探求した一冊である。
 ここでいう「書かれた衣服」とは何か?
 バルトはモードには3つの段階と構造があるという。
①現実の衣服:「物質とその変形」の構造
②イメージとしての衣服:「造形」構造
③書かれた衣服:「言語」構造
要するに、①は我々が実際に着る衣服、②は写真や絵で見る、ビジュアル加工された衣服、③は記事としてフランス語で書かれた衣服である。バルトはこの中から③を選択し、「ELLE」などのモード誌一年分を分析対象とした。
記号学の理論を用いてモード体系の意味作用を明らかにしようとするとき、①と②は分析対象として適切でない。なぜなら①は実用性、②は造形性という価値が入り込み、分析を複雑極まりないものにしてしまうからだ。一方、③の「書かれた衣服」は純粋に情報を伝える目的で使用されており、意味作用の構造を検討する素材としてうってつけである。ただし、モードは年ごとに価値内容が大きく変化し、去年はア・ラ・モードだった言葉が今年は陳腐化する、といった事態が生じるとの問題はあるが、これも分析対象となるモード誌記事を1年間に区切ることでクリアできる。
バルトが「書かれた衣服」の分析という一見、酔狂に見えるテーマに取り組んだのはこのような理屈があった。

バルトが「書かれた衣服」の分析に援用した方法は、ソシュールの強い影響を受けた言語学者イェルムスレウが提起した、二つの意味体系が一つの陳述の中に成立しているという言葉の構造分析である。

1

図1で示すように、言語学では言語の中に「表現」という面と「内容」という面の二種類の存在がある。要は音声などの「表現」とそれが意味する「内容」の関係の総体が、一つの体系を作っているとの考え方である。さらに、このように構成された体系は、それ自身がより拡張された第二次体系の一要素となる場合がある。

2

図2の体系①は現実のコード、体系②は用語のデノテーション(言葉の辞書的意味)、体系③はコノテーション(言葉が呼び起こす個人的、情感的状況的含意)である。
これでは何のことやらさっぱりわからない、具体的なケースではどうなるか。「赤は禁止の信号です」と教師が生徒に伝えた場合を考えてみよう。

3

図3における①現実のコードで表現は「赤の知覚」であり、内容は「禁止という状況」である。②用語の体系では「赤は禁止の信号です」という文章と、①を下部構造とする「赤は禁止の信号です」という命題で一つの体系が構成される。
しかし、現実には言葉が言葉通り伝わることなどめったにない。話し方の強弱、雰囲気といった教師の特性的表現によって、その時の彼の機嫌や性格などさまざまな要素が言葉が本来意味する内容の上に覆いかぶさるからだ。そして「俺がお前に教えてやっているんだ」といった教師としての「役目」が伝達されていく。

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