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2007.07.20

善意におけるネコの手仕事

 もう木曜日だったか、こりゃまずい…。

 先日ちょっと触れたダイヤモンド7月14日号特集の「ハケンの裏側」。昔むかしのプー時代、私は日雇い派遣の会社で1日いくらで働いていたこともあって、ちょっとした郷愁なども感じながら眺めた。あの頃は海外をうろつくこと以外はな~んにも考えていなくて、ただ日銭を稼ぐため空いている日の前日に電話をして、翌朝指示された現場へ出かけていた。面子は授業サボりの学生やミュージシャン志望、役者志望の人が多かった覚えがある。今はどうなんだろう。

 仕事は建設現場の養生(既設部分に傷をつけないための目張り等の作業)や掃除、ガラ出し(ゴミを集めて担ぎ出す)、建材の搬入なんかが多かったなあ。要は体力さえあれば誰でもできる仕事。ネコの手みたいなもんだ。別の見方をすれば、長年やっても身につくのは現場のおっさんたちとすぐうち解けられる世間知ぐらいで、歳を取れば取るほどきつくなる仕事。なので、23、24歳あたりから「こんな仕事をいつまでもやっていたらヤバい」と思った記憶がある。うまく他の仕事にシフトできない人たちはすさんでいくしかなかった。

 飲食あたりのバイトだと認められて社員昇格という機会もわりとあるわけだが、日雇い派遣ではあまり聞いたことがない。その意味では、若いときの有り余るヒマな時間を日銭に変えるには便利な仕事だけど、長くハマったらまずい仕事だと言える。皆さま、お気を付けくださいませ。

 で、グッドウィルの決算短信など見ていたら、これがなんというか、"面白い"代物であった。経営方針について書かれた箇所から引用しておこう。

<「ブランド」の点からは、「正しくないことをするな、常に正しい方を選べ」と社訓にもありますように、まさに絶対的な信用を裏切らないことを第一義としております。社会貢献性の高いビジネスを手がけております当社グループは、常にコンプライアンス・ガバナンスを意識した上で、今後もブランド醸成に努めます。>

 決算短信という世間に公開する報告書に、さんざん不正や違法行為がバレた会社がこんなことを堂々と書いてしまう厚かましさには、異様なマグマを感じる。語られる言葉の美しさと実態の汚さの絶望的な距離は、生え際の広さに比例するものなのか。

 グッドウィルでは、派遣労働者から「データ装備費」という名目で1回の派遣ごとに200円を徴収してきた。ダイヤモンド誌によれば「何に使われているのか実態は不明」という代物で、同社は過去2年分の43億6000万円を返還することを労働組合と合意している。同社の事業セグメント中の人材派遣・請負事業における営業利益は昨年6月期が51億9500万円、2007年6月期が81億8200万円。2年分の営業利益を合算した約3分の1が、このデータ装備費だった計算になる。

 この事業部門における売上高に対する営業利益率は昨年が6%、今年が7.1%。そのうち3分の1がデータ装備費という不当な利得によってかさ上げされていたと考えられる。また、前出のダイヤモンド誌によれば「日雇い派遣は契約が一日ごとであることを理由にして社会保険に加入させてもらえない労働者が多い」という。同記事中のコメントのように、「社会保険加入コストは売上高の約1割」と考えると、まともに社会保険まで負担したらこの事業は儲かっていないんじゃないかな。

 儲かっていないが故にデータ装備費を徴収したのか、最初からデータ装備費みたいなものを乗っけて利益をかさ上げしていたからきちんと儲ける仕組みができていないのかはわからないけれど、会社が真っ当にやっていくためには、やはり正々堂々と儲けるビジネスモデルをつくれないとダメだ。いくら理念として美しい言葉を吐いてみせても、まともに儲けられないと潰れるか、実態はどんどん汚れていくということなのだ、きっと。

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