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2008.04.14

『中国の大盗賊・完全版』

 一連のチベットの出来事とそれに対する中国共産党政府の動きをながめていると、どうもよくわからないなあと素朴に思うことがあります。それは、中国政府首脳の発言です。地位のある人が平気でウソをつき、露骨な情報操作を他国にまでかける。今にはじまったことではありませんが。

 いや、どの国でも政治家は平気でウソをつくし、情報操作なんてやるのが当たり前ではあるのですが、チベットで「一種の文化的虐殺」が現在進行形で行われた結果として騒乱が起こっているのが明らかなのに、「チベットは最良の時期にある」「チベットでは宗教の自由の保護政策が実施されている」と外務省の高官が述べたりする。当地ではダライ・ラマの写真さえ持てないのにね。大国でここまでの強引さや厚顔無恥さはそんなには見あたらないのではないかと。

 どうもよくわからないなあというのは、この辺りの内在的論理が見えてこない、という意味です。そんな中、マイミクさんが紹介していた『中国の大盗賊・完全版』は中国共産党の内在的論理を知る上でとても参考になりました。タイトルからはそういう本には見えないかもしれませんが。

「中華人民共和国は、中国の歴史上、漢、明、につづく強力な盗賊王朝である。」

 著者はそう言い切ります。共産党の革命は、中国の歴史のなかで見ると「一つの盗賊集団が漸次壮大になってついに政権を奪取する過程と見たほうが理解しやすい。そのほうが、プロレタリア階級の革命と見るよりもずっと話が合う」そうです。つまり、共産党革命は赤好きの方たちが言うような農民や人民による崇高な革命ではなく、新しい集団が旧来の権力者を打倒し入れ替わっただけ、というわけです。

 盗賊というと小さな集団で権力とは一生縁のない感じがしますが、中国の盗賊は何かの拍子に突然大きくなって一地方を支配することがよくあったそうです。中国は人口が多くて可耕地が狭く、かつ農業技術が発達しないので、働き場のない、あるいは働いても食べられない人間が大量に発生しやすく、非常に大きな集団になりやすいわけです。

 なお「盗賊」とは正義・不正義とは関係なく、「官」の立場から見て、実力で自らの要求を通そうとする集団はすべて「盗賊」となります。その中から宗教的・神格的なよりどころを有し、不平知識人が集まり戦略策定や広報などを担当し、各地に情報ネットワークを持つ行商人が参加するといった条件がそろった盗賊集団は機能的に動ける組織となり、一地域を支配するだけでなく、天下を脅かす存在になっていきます。

 で、そうやって天下を取り長続きしたのが漢と明で、すぐに負けたのが李自成。そして共産主義という宗教を掲げ、不平知識人が集まった中国共産党もこの流れの中に位置づけられるわけです。当時の中国にはプロレタリアートなんて存在はあまりいなかったことを考えれば、確かにこの方がすっきりします。

 このような本書の著述に基づいて、チベットやウイグルの騒乱、あるいは中国各地で頻発する暴動を、現在の「官」である中国共産党から見ると、下手をすれば自分たちの存在を脅かす「盗賊」集団のように映っていることがわかります。そこに人権の尊重や宗教の自由といった相手を利する概念が入り込む余地はないのでしょう、自分たちが倒されるのが恐いから。彼らの生き残りがかかっている、といってもよいでしょう。

 また、歴史的に認められる王朝か否かを決定するのは、それぞれの王朝が前代の歴史について作成する「正史」です。ただし、「正史」といっても「政府著作」という意味であって別に「正確」というわけではないので、自分たちに都合のいいつくり話も書かれているそうです。都合の悪い事実を露骨に無視できるのも、見え透いたウソを平然とつけるのも、このような長い歴史に基づく習性があればこそ、のように思えます。

 というように、本書は最近の中国の振る舞いを理解するための示唆に富んでいる上に、読み物として無類に面白い一冊であります。最後に、中国社会の認識としてそういうことだよなぁと思った部分を引用しておきましょう。

 二十世紀というのは、世界の多くの地域で近代的な社会の仕組みがだんだんにでき、自由だとか人権だとか民主主義だとかいう考えかたが、無意識のうちにも、また多少なりとも、人々の頭に浸透してくる時代なのであるが、中国という所だけはそんな歴史の進展からポッカリと取り残されて、とんでもない暴れ者が現れたらずいぶん思いのままに引っかきまわせる、五百年前、千年前と変わりのない社会なのだった、だからこそ毛沢東が暴れられたのだ、ということである。

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