働く人にお金が回ってこない理由
経産相の経団連に対する賃上げ要請や新総裁に決まったこの方の話なんかを見ても、今後の政府政策は労働分配率を高める方向に向かいそうな雲行きです。でも、ちょっと前まで長い景気回復が続いていたのに、なんで富は労働者に分配されてこなかったのでしょう? 日本企業は従業員重視だったはずじゃないの?
『なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか』(北野一 ダイヤモンド社)はこの問いに対して「慢性的金融引き締め」という表現を用いて説明しています。
生産性の伸び率に大きな差がないなら、人口が減る分、日本の経済成長率は世界よりも低くなる。成長率が低いなら、金利も低くなるのが当然だ。しかし、グローバリぜーションのもと、日本にも均一化された同じ金利が求められるようになっている。実力以上の金利を支払う状況とは、すなわち金融引き締めである。これがグローバリゼーションに伴う慢性的金融引き締めなのだ。
要するに、付加価値がそれほど増えていない状況にも関わらず、グローバル化した資本の出し手は中国やインドみたいな成長国にも、日本のような成熟段階に入った国にも同一のリターンを求め、その結果、従業員や債権者への分配が削られている、というわけです。
でも、株主資本コストが割高ならば、経営者は資金調達を負債に切り替えればいいはずなのに、自己資本比率は近年、ずっと上昇しています。なぜでしょうか。その理由として著者が指摘しているのが、内部留保に対する経営者の認識の誤解です。
極端な場合、内部留保は「タダ」だと思われている。いずれにせよ、同じ自己資本として積み上げられる内部留保と増資に対し、異なるコスト概念を持っているのである。(P18)
企業としては内部留保を積み上げることにより、資本コストを引き下げることに成功したと思っているのであろうが、結果的には割だかな資本コストでの資金調達になってしまっているのである。そのしわ寄せが、株主以外のステークホルダーに対する分配の削減につながっているである。(P19)
格差問題がクローズアップされ、その原因として小泉政権の構造改革を批判する論を多く見かけます。しかし、本書は「直接原因はそうかもしれないが、深層原因は『過剰な資本収益性が追求されている』ことであろう」と、単純で感情的な小泉批判とは一線を画した視座と、慢性的金融引き締めからの脱却という観点から処方箋を提示しているところに一読の価値があります。
金融の知識がないと少々手を出しにくい本ですが、とくに経営者、格差問題に関心のある方におすすめです。
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