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2008.11.07

格差はつくられた

 各種の予測通り米大統領選は民主党のオバマ当選。しっかし、なんで一つの国の中に天国と地獄が存在するが如き極端な格差が放置され、生命に関わる医療保険制度もろくに整備されていない状態がずっと続いていたんだろうなあ。

 で、先日ノーベル経済学賞を受賞した民主党支持者ポール・クルーグマンの『格差はつくられた 』を読むと、こんな見解が示されている。

<グローバリゼーションや技術革新と言った時代の趨勢が、アメリカの所得配分にますます不平等と格差をつくり出し、少数のエリート層だけがぬきんでていった。台頭しつつあったエリート層に共和党が取り入ることにしたのは、数では劣るエリートたちが巨額の献金をすることでぜひ自らの要求を実現したいと思っていたからであろう。こうして両党の間には溝が生じ、共和党は拡大する不平等と斯くあの中の勝ち組を代表する党となり、民主党は取り残された人々を代表するようになった。
(中略)
 しかし、私はこの因果関係は逆なのではないかと考えるようになってきている。党派主義という政治的な変化こそが経済的な不平等と格差の大きな要因なのではないか。ニューディールの成果を逆戻りさせようとする右派の急進派が一九七〇年代を通じて共和党を支配するようになり、党派主義によって民主党との溝を深めてきた。そのため民主党は、これまで長年続いてきた社会制度を擁護しようとする真の保守派となった。
 急進的な右派が力を得たことで、ビジネス界は労働運動に対して攻撃を仕掛けることができるようになり、労働者の交渉力は劇的に減退した。経営陣の給与に対する政治的・社会的抑制力は消え失せ、高所得者に対する税金は劇的に軽減され、その他実にさまざまな手段によって不平等と格差は助長されてきたのである>(P9~)

 要はグローバリゼーションや技術革新より、アメリカの政治が右にシフトしたことが平等を促進してきた規制や制度を損ない、不平等と格差の拡大につながったというわけだ。

 でも、数からいうと金持ちなんて一握り。中間層と貧乏人を合わせた方が圧倒的多数になるはずで、なんで露骨に金持ち連中の利益にかなった政策を推進する者が過去、選挙で勝利を収めることができたのか。それは、「保守派ムーブメント」が一般大衆の感情にアピールする二つの要素を見出して、大衆支持基盤を掘り起こしたからという。

<その二つとは白人の黒人解放運動に対する反発と、共産主義に対する被害妄想であった。この支持基盤の出現は、政治的には周辺的な存在でしかなかった一九五〇年代の「ニューコンサーバティブ」を、長い道程の末、無視できない政治勢力へと押し上げた。>(P82~)

 レーガンは「小さな政府」を唱え福祉のむだ遣いや騙し取りを攻撃したけれど、それは黒人解放運動に対する白人の反発をくすぐるものだったらしい。福祉の恩恵を受けている者の多くが黒人だったからだ。自分たちの払った税金が黒人の福祉に使われることなどまかりならんと。日本人にはわからんところです。保守派ムーブメントはビジネス界の支持も得た。

 で、いよいよ格差は拡大し、中産階級もきつい状況に追い込まれている。調査によるとアメリカでは個人の破産件数が増大した。個人の借金が増えた理由は贅沢品の浪費ではなく、主な理由は住宅購入のためで、それは子供のためによい学区に住居を確保するためだったという。

<中産階級のアメリカ人は、出世競争に巻き込まれてしまっていた。彼らがどん欲で愚かだったからではない。子供にますます悪化する格差社会の中で、勝ち残るチャンスを与えようとしただけだった。そのような親の心配は当然のものである。人生の出発点でつまずくと、子供の人生の機会を台無しにしてしまうかもしれないのである>(P204~)

 その一方で出現した極端な金持ちたちは、カネの力で国家の政策に影響を及ぼすようになっている。いわば、一部の者がカネで国家が買えるという状況が生まれ、ますます格差は拡大しかねない。

 こうした認識と危機感が、オバマ旋風の背後にあったようだ。極端な富の偏在を是正する方向に今後の政策は振られるのだろう。その舵取りを担うのが黒人というのは、こうしてみると必然的というかハマリ役といえますな。

 ついでに記しておくと、本書は興味深いテーマを扱っているのに、なぜか他のクルーグマン本のようには面白くない。それはamazonのレビューでもあるように、翻訳の問題が大きいと思われる。

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