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2009.06.25

職場の理不尽との戦い方

『人が壊れてゆく職場』笹山尚人 光文社新書

 突然の賃金カットや解雇、あるいはパワハラなど職場で起こる理不尽な事態を労働法でとらえるとどう解釈され、どんな対抗策が取れるのか。本書は労働事件を取り扱う弁護士である著者がこの問題について、実際に関わったケースをベースに解説している。その意味では理不尽な使用者に対する労働者の戦い方がテーマであり、ちょっとタイトルと内容にはズレを感じるけれど、取り上げられている事例はとても生々しく、近年の労働環境の劣悪さの一側面を切り取っていることは間違いない。

 有料職業紹介で働いていた人が突然クビを切られたケースの中で、著者はこんな感想を述べている。

<労働者派遣の事例を扱っていてよく感じるのは、派遣先の「ユーザー感覚」である。つまり、派遣先は、人間を受け入れて仕事をしてもらっているというのではなく、商品や機会を納入してもらってニーズを満たしている、という感覚を持つのである。この感覚は、派遣労働者が自らの思い通りにならないとき「不良品」「バグ」(瑕疵)といった感覚を持つことにつながる。だから「不良品」や「バグ」をなんとかしろ、と派遣元に文句を言うようになる。それは、不良品を与えられたときに正常な商品との交換を求めるように、思い通りになる派遣社員を派遣し直せという要求になっていく。思い通りにならない派遣社員を人間扱いしないのである。>

 昨今の労働者の窮状に関する分析など著者の分析にはあまり同意できないところもあるのだけれど、こうした「ユーザー感覚」が労働者を一人の人間として取り扱わず、当然の賃金支払いをしない、年次有給休暇を認めない、フルタイムでも社会保険に加入させないといった企業の行動につながっているとの指摘は、昨今の雇用問題のかなり重要な視座になると思った次第です。

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2009.06.21

『医療の限界』小松秀樹

 医療ミスで怒った遺族が医師を訴える事例が相次いだ。警察も熱心に捜査し、裁判にもなった。確かに居丈高でろくに患者の話も聞かない医師なんてざらにいるし、資質の低い医師を淘汰したり、医療ミスを究明したりする体制が十分でないのは確かだ。

 でも、人間はこの世に生を受けた瞬間から死を定められた存在であり、手を尽くしても助けられない事態は当然起こる。もともと医療行為自体、リスクを伴うものである。手術すれば病巣を摘出できるかもしれないが、体力を落としてむしろ寿命を早めるかもしれない。最新の手術法はデータの蓄積がない分、想定外の事態も起こりやすい。

 医師がそうした専門的で微妙な判断を慎重に下して治療にあたっても、人は死ぬときは死んじゃう。それにも関わらず死という結果だけをもって医師を糾弾していたら、真面目な医師ほど医療から離れる、あるいはリスクの高い医療への従事が敬遠され、結果として医療への満足度が低くなるどころか日本の医療体制が崩壊しちゃうよ、と著者は警告する。

 本書は現場の第一線の医師がその立場から現状を告発するという地点にとどまらず、医師と患者の摩擦が増える理由を医療に対する認識のズレにあるととらえ、その思想的背景にさかのぼって論じていてけっこう刺激的。具体的な提言やすでに現場で医療をよりよくしようと実行している取り組みの紹介も入っていて、とくに近年の報道で医療者=悪者みたいな印象を持っている人は読んでおくのが吉かと。医師側から見た医療の実態と危機感に触れられます。

<死や障害が不可避なものであっても、自分で引き受けられず、誰かのせいにしたがる。私は、あえてそれを「甘え」と呼びます。しかし、メディアや司法はそれを正当なものとみなし、ときには十分な責任を果たしている医師を攻撃するのです>

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