職場の理不尽との戦い方
『人が壊れてゆく職場』笹山尚人 光文社新書
突然の賃金カットや解雇、あるいはパワハラなど職場で起こる理不尽な事態を労働法でとらえるとどう解釈され、どんな対抗策が取れるのか。本書は労働事件を取り扱う弁護士である著者がこの問題について、実際に関わったケースをベースに解説している。その意味では理不尽な使用者に対する労働者の戦い方がテーマであり、ちょっとタイトルと内容にはズレを感じるけれど、取り上げられている事例はとても生々しく、近年の労働環境の劣悪さの一側面を切り取っていることは間違いない。
有料職業紹介で働いていた人が突然クビを切られたケースの中で、著者はこんな感想を述べている。
<労働者派遣の事例を扱っていてよく感じるのは、派遣先の「ユーザー感覚」である。つまり、派遣先は、人間を受け入れて仕事をしてもらっているというのではなく、商品や機会を納入してもらってニーズを満たしている、という感覚を持つのである。この感覚は、派遣労働者が自らの思い通りにならないとき「不良品」「バグ」(瑕疵)といった感覚を持つことにつながる。だから「不良品」や「バグ」をなんとかしろ、と派遣元に文句を言うようになる。それは、不良品を与えられたときに正常な商品との交換を求めるように、思い通りになる派遣社員を派遣し直せという要求になっていく。思い通りにならない派遣社員を人間扱いしないのである。>
昨今の労働者の窮状に関する分析など著者の分析にはあまり同意できないところもあるのだけれど、こうした「ユーザー感覚」が労働者を一人の人間として取り扱わず、当然の賃金支払いをしない、年次有給休暇を認めない、フルタイムでも社会保険に加入させないといった企業の行動につながっているとの指摘は、昨今の雇用問題のかなり重要な視座になると思った次第です。
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