HRD(人材育成・採用)コンサルタント 阿部淳一郎さん⑤
転職オファーに業務委託契約を逆提案
就職コンサルタントの本田氏との出会いによって、阿部さんは「こういう仕事のやり方もある」と知った。しかし、当時はあくまで憧れの存在で独立する気はなかったという。
「本田さんやそのネットワークの人たちと知り合って、キャリアを考える発想と、世の中には優秀な人たちがたくさんいるということを学びました。そこでふと気が付いたのが、この数年の挫折はキャリア形成の視点からみたら有効だということと、今の仕事は会社員をしながらトークの実践をできる立場にあるし、さらに大きなビジネスの実務も任せてもらえる環境にあるということ。しかも残業のそう多くはない職場でしたから、夜は人脈づくりにあてられる。よく考えてみるとこの状況って最高じゃん、と気が付きました。
また、もっと何かできる場所を探そうと思い、キャリアカウンセラーの資格を取得しました。今はいっぱいいますが、当時は、アウトプレースメント全盛で、若い資格取得者はあまりいなかったので『若者相手のキャリアカウンセラーなんて意味分からない』とよくダメだしをされましたね。でも、当時は僕も生意気で虚勢を張っていたので、あちこちの勉強会に行って『将来こんなことをやりたいんです』と言って回っていました」
そんな風に人の輪を広げる努力をしていると、可愛がってくれる人も何人か出てきた。そのつながりが独立への転機となる。勉強会で知り合ったキャリアカウンセラーが、ある大手人材関連会社の専務に「面白い子がいる」と紹介してくれたのだ。
「キャリアカウンセラーの方は人材関連会社が新卒派遣事業をスタートするにあたり、学生の支援をできる人を探しているので誰かいい人はいないかと相談されて、僕を推薦してくれたんです。詳しいことは何も知らないまま先方を訪問すると、『事業立ち上げのプロデューサーとして、今の会社を辞めてウチにこないか』と誘われました。しかし、僕はそんな仕事をしたことないですし、どうしようかと迷った後、こんなことを言いました。
『ちょっと待ってください。僕がやりたいのは講師の仕事なんです。すでに、実際に講義を担当している学校もあります。ただ、この仕事はぜひやらせて欲しいと思っています。そこで業務委託契約で週3~4日程度働く形ではいかがでしょうか』
正直、かなりハッタリをかました部分もあります。そう伝えると『検討する』と約束していただき、具体的な条件を提示してくれました。それを計算してみると、仮に他に仕事がまったくなくても生活する分くらいは十分確保できる。しかし、来年はどうなるか保障もないですから、本気で悩みましたよ。そこで講演の仕事で新潟にいた本田さんへ相談しに行きました。
『阿部っち、それやりたいの』
『やりたいです』
『じゃあ、やったらええやん』
やり取りはそれだけで、当時はこれだけかよと思いましたが(笑)、会社を辞めて業務委託の仕事を引き受けることに決めました。社員ではなく業務委託を提案したのは、僕はいずれ本田さんのように、大学でしゃべる仕事をしたかったのが理由です。本田さんは年に300本も講演されていますから」
講師業をやるためには業務委託で仕事をして自由度を高めたほうがいいという判断で、「最初はアルバイト感覚的なところもあった」と阿部さんは言う。しかし、そんな考えはすぐに吹っ飛ばされることになる。
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